帯広市に、ある有名なガーデンがあります。広大な土地に季節ごとの花が咲く、その美しさに癒されたくて訪れる人もいるでしょう。そんな花々を眺めながら食事ができるレストラン目当てに訪れる人もいるでしょう。しかし、ここ「紫竹ガーデン」を訪れる人の多くが、オーナーである紫竹昭葉さんに惹かれてやって来ているというのです。一体どういうことなのか、紫竹さんに会いに行ってみました。
紫竹ガーデンのオーナー、紫竹昭葉(しちく あきよ)さんは、昭和2年生まれ。令和元年の今年で92歳を迎えます。実際の紫竹さんにお目にかかると、きっと皆さん驚かれることでしょう。今でも毎日庭仕事に励むというだけあって、若々しくパワーに溢れています。しかも、とってもチャーミング!
そんな紫竹さんがガーデンを造るきっかけは、数十年前に遡ります。54歳の時、夫に先立たれて未亡人となった紫竹さん。泣いて暮らす日々が何年も続きますが、ある時、長女かずよさんの「お父様は『あなた方のお母さんは、太陽のように明るい人だ』と言ってらしたわよ」という言葉を聞き、ハッと我に返ります。そこから、次の生き方を考えようと心に誓い、昔から花が好きだったことに思い当たったのです。
「さまざまな草花が自由に咲き誇る、北海道の野原を再現しよう!」と、紫竹さんは家族に「農民になる」と宣言します。しかし、家族は猛反対。当時すでに紫竹さんは60歳を越えていて、畑仕事の経験もありません。そして何より、紫竹さんが草花を植えようとしていた土地は、約5ヘクタールもの気が遠くなるような広大な牧草地だったのです。
しかし、かずよさんは「母らしい生き方をしてほしい。好きなことで幸せに生きられるなら、それを応援しよう」と思い直します。こうして平成元年に念願のガーデン造りに取りかかりました。家族や知人、ガーデンデザイナーなどの協力を得て、そこから3~4年の年月をかけて、平成4年、紫竹ガーデンとしてオープンするまでになりました。
紫竹ガーデンでは2500種類もの草花が、四季折々の表情で出迎えてくれます。いちばんたくさんの花を見られるのは、7月半ばから9月半ば頃。花が好きな人は、何が見頃なのかを分かった上で、その季節をねらって訪れると言います。
実は紫竹ガーデンでは、少し野性的な栽培方法を実践しています。農薬はもちろん、肥料も、水やりもしないのです。北海道としては記録的な猛暑で30℃を越えた日も、水をやらなかったというから、その徹底ぶりに驚かされます。
水やりをしないで本当に草花が枯れないのか、素人には信じられないことですが、土地をかき混ぜないことで微生物が活動する団粒構造ができ、水をやらないことで草花が深いところに根づくので、より天候の影響を受けづらくなるのだとか。
ちなみに紫竹さんは種を植える時、必ず「水をあげないから、自分たちで根を深いところまで伸ばして生きるのよ」と言い聞かせているそう。
紫竹ガーデンでは、雑草も環境のひとつだと考え、あえて生い茂らせています。花に覆い被さるように生えている雑草は抜きますが、全景のバランスを遠くから眺めつつ、土がむき出しにならないように注意しています。
こうして、まるで原生の花園のように見える紫竹ガーデンが保たれているのです。「北海道の野原を再現しよう!」と、いちばん最初に思い描いた紫竹さんの夢が、今まさに現実のものとなって広がっています。
さて、紫竹ガーデンにはレストランもあります。窓が大きく開放的な雰囲気で、まるでお花畑の中でピクニックしているような気分になれるはず。特におすすめなのが、要予約の朝食セット「お花畑で朝食を」(税別1800円)。
地元・十勝の旬の食材をふんだんに使った、サンドウィッチやスープやチーズなど、種類豊富でどれもこれも絶品。オリジナルのハーブティーやスムージーなど、ここでしか味わえないドリンク類もおすすめです。
もちろん、ランチやデザートもいろいろ用意されています。ここで販売している手づくりのスコーンやシフォンケーキもあり、どのメニューも大人気。草花と共に食事も楽しみのひとつとして、紫竹ガーデンを訪れる人は多いようです。
最後になりましたが、紫竹ガーデンという名前は、紫竹さんが今は亡き夫のことを思って付けたのだといいます。夫が生きていた証を、紫竹ガーデンという形で残していきたい、と。思えば紫竹さんが一念発起したのも、長女から伝えられた夫の言葉があってこそでした。このガーデンがキラキラと輝いているのは、大きな愛に貫かれているからなのかもしれません。