「野湯」というものをご存じでしょうか。「のゆ」とも「やとう」とも呼ばれ、時には「野天湯(のてんゆ)」という呼び方もされる、その名の通り、施設も屋根もない野外に湧き出ている温泉のことです。時に山林の中にあったり、湖や川の畔にあったりと、ロケーションもさまざま。北海道にもこうした野湯がいくつか存在しています。今回は、鹿追町にある「鹿の湯」をご紹介しましょう。
鹿の湯は野湯ですから、温泉施設があるわけではありません。自然の中に、ぽつりと存在しています。そんな鹿の湯に行きたいと思ったなら、まずは然別峡キャンプ場を目指しましょう。
キャンプ場の入口に着いたら、真ん中に露天風呂の案内が書かれた小さな看板があるのに気づくはずです。鹿の湯は商業目的の温泉ではないので、無料で入れます。ただし、訪れた人が気持ち良く過ごせるように、鹿追町役場がきちんと管理してくれています。看板の下に設置された箱に、いくらかでも感謝の気持ちを投入しましょう。
キャンプ場を通り抜けて進んでいくと、鹿の湯へ続く入口が見えてきます。「露天風呂まであと100m」と書かれた看板から、川べりへ向かって下っていきます。
流れているのは、シイシカリベツ川。この川に沿って歩いていくと、その先に見えてきました! お目当ての鹿の湯に到着です。
野湯とはいえ、きちんと管理されているので、野湯初体験の人でも抵抗なく楽しむことができそうです。ただし、上の写真を見ていただければ分かる通り、脱衣場は薄い板で囲われただけの、ごく簡易的なものしかありませんのでご注意を(写真は2019年7月撮影)。また、鹿の湯では水着と下着での入浴は禁止されています。今回は特別に撮影のために許可をいただきました。
取材日にも、温泉好きの女性グループが訪れて、野湯ならではの開放感をたっぷり満喫していました。東京、大阪、芽室からそれぞれ集結したというから、驚きです。このように、鹿の湯には日本全国から温泉ファン、秘湯ファンが訪れるそう。
ちなみにユーヤンベツ川の畔に温泉が発見されたのは、明治40年のこと。本郷兵吉という人物の調査により、渓流のあちこちに温泉が湧き出していることが判明しました。
鹿の湯が開設されたのは、そこから長い時を経た昭和61年10月のことでした。当時、鹿追町では公費に300万円を投じ、さらには土木現業所の協力を得て、約9平方メートル・深さ70センチの湯ぶねを造成しました。
道衛生部の泉質検査によると、鹿の湯にはナトリウム炭酸水素塩が含まれており、神経痛や慢性消化器疾患、皮膚病などに効果があるのだとか。
温泉宿でまったりと露天風呂に入るのも乙ですが、たまにはこんな野趣溢れる温泉にトライしてみるというのはどうでしょう? もしかすると、眠っていた野生が目を覚ますかもしれません。そして、初めて野湯というものを体験する人にとって、鹿の湯は訪れやすく入りやすく、きっと自然の大きな包容力で迎えてくれるはずです。
取材協力
鹿追町役場 商工観光課
住所:北海道河東郡鹿追町東町1丁目15番地1
連絡先:0156-66-4034
公式サイト:https://www.town.shikaoi.lg.jp
Facebook:https://www.facebook.com/shikaoitown/