十勝・浦幌町にある「ちいさな街のパンやさん」。その店名から、近所の子どもがおやつを買いに来たり、誰もが馴染み深い品揃えだったりするのかと思いきや、なんとドイツパンを中心に製造・販売しているというから、ちょっと意外です。しかも店主は元和食の調理人で、店舗は元製麺所……という、なんとも異例尽くしなパン屋さん。いろいろと気になるところを伺ってみました。
まず最初に聞きたかったのは、かわいらしくも、実はなかなか大胆な店名について。「ちいさな街のパンやさん」とは、これ、何故に?
「幕別町札内で初めてパン屋をオープンする際、工事を請け負ってくれた人の発注書に、街のパン屋さんと書いてあったんです」
そう答えてくれたのは、店主の谷口仁さん。
ありそうでないユニークな店名の由来が、まさか工事の発注書からだったとは。平成6年、幕別町に最初の店をオープンするまでは、和食の調理人としてさまざまなホテルなどを経験してきました。ある時、パンの世界が面白そうだと思い、初めて作ってみたところその味わいに感動し、はまってしまったのだそう。
現在の浦幌町に店舗を構えたのは、平成20年頃のこと。谷口さんはもともと浦幌町出身、元製麺所だった建物を使わないかという誘いもあり、移転を決意しました。
さて、移転にあたって谷口さんは考えました。「人口が少ない場所で経営していくには、お客さんの来店動機がなくちゃいけない」と。他があまりやっていないパンをやろうと、ドイツパンに目をつけたのです。
そこでドイツパン専用のオーブンを用意し、ハード系の多い本格的なドイツパンの店としてスタートします。とはいえ、ドイツパンに馴染みのない人でも食べやすいよう、ライ麦の率を減らして酸味を抑えるなど、工夫が施されています。
「ハード系のパンが多いと、何と合わせて食べたらいいかなど質問されることも多く、お客さんとの会話が増えるんですよね」(谷口さん)
お店では、毎月12日を「ドイツパン試食販売の日」と指定。クリームチーズやスープ、手づくりのレバーペーストが提供され、おいしい食べ方を伝授してくれます。しかもその日はドイツパンが10%オフ! ありがたい限りです。それではおすすめのパンをいくつか紹介していきましょう。
ビタミンEが豊富なひまわりの種がたっぷり入った、ライ麦全粒粉70%、十勝小麦30%のパン。これだけ食べても、食事に合わせても、おすすめです。
レーズン、くるみ、クランベリーの入ったハード系パン。ワインとも相性バツグンで、クリームチーズを載せて食べると、よりワインが進みそう。
十勝らしく、力強い輓馬の蹄鉄をイメージして作られたパン。なんと十勝産の長芋が入っているというから驚きです。マカダミアナッツの食感もいい感じ。
甘い系のパンはそれほど多くありませんが、お客さんからの根強い支持を誇ります。このチョコスコッチも、そんなひとつ。チョココーティングがたまりません。
また、店主の谷口さんは「十勝パンを創る会」にも最初から参加しています。
「同業者と話をする機会はなかなかないですし、得るものが多いです」(谷口さん)
このお店のオドゥブレ十勝は、中札内村産の枝豆が入った食べ応えのある一品です。
最後に、谷口さんに今後の目標について教えてもらいました。
「この職業は定年退職がないですから、死ぬまでパンを焼き続けていきたいですね。そして流行りに乗るのではなく、今までやってきたことをさらに掘り下げて追究していきたいと思っています」(谷口さん)
ちいさな街のパンやさんの夢は、大きく膨らんでいきます。