上士幌町の北に位置するぬかびら源泉郷は、昔も今も、多くの人々を癒してきました。その源泉が発見されたのが、大正8年、1919年のこと。つまり、2019年の4月10日に開湯100周年を迎えた記念すべき年なのです。ここで改めて、ぬかびら源泉郷がどのようにはじまったのか、歴史を紐解いてみることにしましょう。
(トップ写真提供:ぬかびら源泉郷100周年記念事業実行委員会)
時は大正7年、糠平はエゾマツなどが生い茂る広大な原始林で、とても人が足を踏み入れるような土地ではありませんでした。そんな山の奥地に、熱々の素晴らしい湯が湧いているらしい……という噂が流れます。そこで立ち上がったのが、島隆美というひとりの男でした。
大正8年3月、島は甥と共に、いざ大自然の中へ馬を進めます。雪深い中、これ以上は馬さえ入れないという所まで分け入り、かんじきを履いてさらに奥へ。極寒の密林の中で一夜を過ごした翌朝、2人は木の途絶えた場所に出ます。そこには小さな沢があり、木の代わりに葦が生え、そして、なんと湯煙が立ちのぼっていました。
さらに西の方角へ進んだ約270メートルほどの場所に湯元を発見し、ここから100年もの歴史を紡いでいくぬかびら源泉郷の歴史がはじまったのです。
島は浴用営業許可を取得。土地を開墾して大正13年に湯小屋を建てます。翌14年には湯元滝の湯温泉旅館(現在の湯元館)を開業したというから、そのバイタリティには頭が下がります。
昭和に入り、周辺には他にも温泉旅館やホテルが建つようになります。その泉質の良さと共に、少しずつ知れわたるようになってきたぬかびら源泉郷。さらに人気を博すことになるのが、戦後のことでした。まず、昭和26年にスキー場がオープンします。さらに昭和30年には、糠平ダムが完成します。
スキー場やダムに注目が集まり、糠平はちょっとしたブームに。当時は、新婚旅行で訪れる人も多かったようです。
そんなぬかびら源泉郷も、昭和40年代をピークに徐々に客足が遠のいていきます。糠平まで開通していた国鉄士幌線が昭和62年に廃止になったのも、少なからず影響したのかもしれません。しかし、糠平湖をはじめとした美しい自然と調和するぬかびら源泉郷を根強く支持する声があるのも、確かです。
昨今では温泉街を森に復元しようという運動もあり、新しい時代の温泉地づくりが進められています。ひとりの男の行動力が、やがて100年も続く温泉へと発展していったという驚くべき事実。ぬかびら源泉郷の良質な湯に浸かりながら、悠久の時に思いを馳せてみるのもいいかもしれません。
取材協力
ぬかびら源泉郷100周年記念事業実行委員会
住所:北海道河東郡上士幌町字ぬかびら源泉郷南区 中村屋内
電話:01564-4-2311(中村屋)
公式サイト:http://www.nukabira100.com