かつて、北海道十勝の開拓には馬が欠かせませんでした。人と馬とが力を合わせて、大地を耕し、暮らしを切り拓いていった時代が、確かにあったのです。そんな十勝で、再び馬のいる風景が見たいと思った人々がいました。さまざまな試行錯誤の末、その夢は「馬車BAR」という形で開花。一体「馬車BAR」とは何なのか、探ってみましょう。
帯広の夜の街に、カッポン、カッポンと、心地のいい音が響いてきます。音のする方を見れば、そこには大きな馬の姿が。そう、これこそが「馬車BAR」。2019年4月22日から運行を開始した、馬車運行ツアーです。

馬車を挽いているのは、ばんえい競馬を引退した競走馬、雄の「ムサシコマ」です。その体高(肩の高さまでのこと)は170cmもあり、耳の高さともなれば軽く2mを超えるほど。現役時は1tを超えていた体重は、現在は少し落ちたといいますが、それでもそれでも巨体に変わりありません。

優しい目をしたムサシコマは、とても穏やかな性格なのだそう。人が大好きで、手を伸ばして鼻先を撫でようとすれば、スッと顔を近づけてくれます。そんなムサシコマが、なんともゆったりとしたリズムで蹄を鳴らしながら、帯広の街を練り歩くのです。

ちなみに、馬車は2階建てになっていて、定員は18名です。馬車をつくる際に参考にしたのが、19世紀に欧州で普及していた「オムニバス」と呼ばれる乗合馬車でした。現在のバスは、実はこのオムニバスが語源なのだとか。

2階への昇降はらせん階段になっていて、馬車後尾の小さなスペースを利用してつくられています。らせん階段の形をCGで検討し、同寸で試作するなど、実は緻密な計算によって出来上がったデザインなのだそう。

馬車BARが運行するのは、毎週月・火・金・土の4日間。午後6時、7時、8時の1日3便です。JR帯広駅から徒歩3分の場所にある「HOTEL&CAFE NUPKA(ヌプカ)」を発着点に、50分ほどかけて約2kmのコースを回ります。

税抜3,000円の乗車券には、1ドリンクとおつまみが付いてきます。地元のクラフトビール「旅のはじまりのビール」も選べるので、更けゆく帯広の街を眺めながら、じっくり味わってみるのも乙なものです。

人馬がもっと近い関係だった開拓の時代。それから100年以上もの時を経て、再び、帯広の街を馬が歩きます。その光景は、日常に驚きと感動を与えてくれるはず。

ムサシコマに会うために、そして非日常な体験を味わうために、帯広を訪れる……そんな観光客も、これからは増えてくるかもしれません。新しい帯広観光のシンボルとして、馬車BARは今まさに動きはじめたばかりです。